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全英オープン その開催コースの素顔

最もタフで“難攻不落”のリンクス

文:大山 郁夫

140th  The Open Championship

今年は南部のリンクス、ロイヤル・セントジョージズ・GCで開催

世界最古のゴルフ競技として知られる世界4大メジャーの第3戦、「The Open Championship
(全英オープン)」が7月14日から始まりました。この大会は毎年、英国の海沿いの
砂丘地帯に造られた“リンクスコース”で開催されています。

ゴルフ発祥の地=スコットランドと言われるとおり、全英オープンも英国の北部・スコットランド
地方での開催がほとんどですが、唯一、イングランド南東部で開催されるコースがあります。
それが今年140回目を迎えた全英オープンが開催されているRoyal  St.George’s  Golf Club
(ロイヤル・セントジョージズ・ゴルフクラブ)です。このコースは首都・ロンドンから
南東に約120キロと至近距離にあり、フランスと対面するドーバー海峡に面した海沿いの
砂丘地帯に造られています。

近郊には英国国教の象徴としてロンドンのウェストミンスター寺院と並び称されるカンタベリー
大聖堂があり、中世より文化の中心地として今日も栄えています。またコースが立地するのは
Sandwich(サンドウィッチ)という町ですが、何か聞いたことありませんか? この“サンドウィッチ”
という言葉!
そうです。あのパンのサンドウィッチです。かつてこの地を治めていたのがサンドウィッチ伯爵
で、彼が狩猟の際、パンの間に野菜や肉を挟んで出かけたことから、いつしか携帯用食べ物
としてその名も定着していき、今や全世界で知らない人がいないという食べ物になったその
発祥の地です。
そういうわけではないのでしょうが、今回のロイヤル・セントジョージ・GCは別名サンドウィッチ
の愛称としても世界的に知られています。

私が初めてこのサンドウィッチを訪れたのは1993年の全英オープンの取材の時でした。
その時の優勝者はオーストラリアの“ホワイトシャーク”ことグレッグ・ノーマンですが、
86年の同大会(スコットランド・ターンベリー)に続き2勝目の栄誉でした。
そして初めてこの地を目にして驚いたのはその起伏の激しさです。これまでにセントアンド
ルースを始めターンベリーやロイヤルバークデールなど、いくつかの全英オープン開催コース
を訪れていますが、その度に当初はスコットランド地方のリンクスはやはり荒々しさがあると
思っていました。しかしこのサンドウィッチを一目見た瞬間、“一体これは何だ!”と
愕然としたことを思い出します。

月面を思い起こすサンドウィッチのコース。上空からでもそのコースの

タフさというか異様さがわかる(写真はグーグルから)

ティグラウンドから見えるのは深いラフばかりで、どこに打っていけばいいのかわからないと
いうレイアウト。例えフェアウエイでも海の波を連想するいくつもの“うねり”があり、
それがホールによって横方向だったり縦方向だったりしているのです。
ティショットでフェアウエイキープしたかに見えてもそのうねりでホールの右端から左端まで
(時にはその逆も)行ったり、またはフェアウエイバンカーに捕まったりと、ボールが止まる
まで安心できないという有様です。
1打ごとに“運不運”が訪れるシーンに観るものには面白いのですが、プレーヤーにとっては
堪ったものではありません。そして日を追うごとにそれが原因でストレスが溜ってくるのです。
もしティショットが深いラフに入ったらもう万事休す。そのホールのパーは諦めなければなり
ません。とにかく第1打は飛距離をロスしてでもフェアウエイキープが絶対条件となります。 

ティショットから気を使うサンドウィッチ。写真は名物4番・495ヤード・パー4(通常はパー5)

ホール。右前方に通称“ヒマラヤバンカー”と言われる高さ8メートルもあるバンカーが立ちはだ

かる。ティショットはこの上を越して見えないフェアウエイを狙うことになる(写真はTV朝日より)

さらにプレーヤーを悩ませているのがうねりだらけのグリーンです。1つのグリーンには
いくつかのうねりがあり、ほんのわずかなミスにも容赦なく、ボールはあらぬ方向に行って
しまいます。さらにグリーンをガードする“タコツボ”バンカーも曲者です。ここに入れたら
確実に1打のロスは免れません。
現在はほとんどが砲台型グリーンになっています。その理由はコースの経た年月とともに
バンカーは砂を取られてより一層深くなり、グリーン回りも削られて傾斜がきつくなり、
グリーンだけが高くなり、結果的に今日の砲台型グリーンになっているということです。

起伏の激しいグリーンとともにプレーヤーを苦しめるのが“タコツボ”バンカー。時には

前面に打ち出しが不可能な場合があり、止む無く後方へのショットを強いられる

この現象は5年10年では成り立ちませんが、英国のリンクスコースのように数百年も経って
くると自然のうちに形成されるということです。それはグリーン周りのガードバンカーを
見ればわかります。バンカーの壁はレンガを積み重ねたように見えますが、実はこれは芝が
幾重にも重なった跡です。バンカーショットで砂が打ち上げられ、風雨で固められた上にまた
芝が生える、ということが長い年月で繰り返し行われた結果、現在のような深い“タコツボ”
バンカーになったと言われています。

グリーン上の摩訶不思議な転がり

各選手は砲台グリーンとその芽の向きに悩まされる

全英オープンを観戦して驚くことにグリーン上のボールの転がりがあります。通常ボールは
上から下へと傾斜に沿って転がります。こんなことは当たり前ですが、でもリンクスでの
パッティングではそれが時として逆の現象が起こるのです。“そんなばかな”と怒られそう
ですが、現実に私も何度か目にしています。TV放映中にも解説者が“あれ? 逆に切れて
行きましたね”なんて言っていたのをお聞きの方もいるはずです。

その理由はリンクスコース特有の“グリーンの芝の芽”なのです。通常我々日本人ゴルファーが
目にするゴルフコースの芝には大きく分けて「ベント系」と「高麗(コーライ)」があります。
コーライ芝はイネ科の植物ですので、根別れして芝がどんどん増えていきます。一方、ベント系
は別名洋芝とも言われ寒冷地特有の芝で、その数500種類もあります。
リンクスコースの芝もベント系の一種ですが、海沿いのコースのため常に塩気のある海風
それも強風にさらされています。通常、ベント系の芝は種1個に1本の芽しか出ません。
これがイネ科のコーライ芝と大きく異なる点です。

リンクスのコース管理者への取材によると、芽は普通真上に伸びていきますがここリンクス
コースの芝の芽は、実に芽同士が交差しているというのです。両手の指を交差してみれば
イメージできると思います。
そのため明らかに右から左への傾斜にもかかわらずカップ際でボールが傾斜に逆らうように
逆方向に上って行く場合があるのです。何とも摩訶不思議な現象ですが、これも過酷な自然
である強風に打ち勝つように進化したリンクスコースの芝の成せる業ということです。

現在はほとんどのプレーヤーが帯同キャディを採用していますが、近年まで「リンクス
(全英オープン)を制するにはいかに優秀なコースキャディを採用するかだ」という格言が
あったくらい、ティショットの落とし所とグリーンの読みはリンクスコースのハウスキャディ
しかわからない、と言われていました。
日本人プロはリンクスコースでの試合もましてやリンクス特有の芝の芽や重たく感じる
強風などの経験がほとんどどないため、好結果が出せないのではないか、と取材を通して
痛感したものです。

1日のうちで“四季”があるリンクスゴルフ

英国のリンクスは1日のうちで四季がある。今年も第3日の午前中が雨だった。

各選手はセーターの上にレインウェア(P・ミケルソン)

晴れれば半袖でも暑いくらいの気候になる(写真は第2日目の池田勇太)

全英オープンが開催されている7月は北半球では真夏です。そのため通常では半袖での
プレーですが、しかし、いったん雨が降るとその様相が一変するのがリンクスコースです。
それまで半袖でも暑かった気候が、雨が降ると横殴りの強風も加わり体感温度が0度近く
思える程、真冬のように寒くなり、セーターの上にウインドブレーカーを羽織っても震える
くらいです。
私も初めての全英オープン取材の際、この雨に見舞われ急きょカシミアのセーターを現地で
購入して着たという寒い経験があります。もっとも考えてみれば英国の緯度は日本で言えば
北海道の北にある樺太ぐらいの位置です。たまたま英国の西側をメキシコ湾流(暖流)が
流れているため、通常は温暖な気候なのですが、それもひと雨で一変するのです。

もちろんゴルフの内容もがらりと変わります。晴れていればスコアは伸びますが、雨が降り出す
と全く反対の風向き、それも重たく寒い強風が大きくスコアを乱すのです。まさに我慢のゴルフを
強いられることになります。
雨が上がればすぐ実に爽やかな気候に戻ります。このため夏のリンクスコースには“1日の
うちに四季がある”と言われるのです。それにしても地元の人たちはこの激しい日較差
(にっかくさ)に慣れているとはいえ、雨が降っても半袖・短パン姿のギャラリーが多いのです。
さすが“ジョンブル魂はすごい”と変なところで感心したものです。

写真はR&A、PGA TOURより

Date:2011.07.17 Category:コラム, リポート