武藤一彦のUSPGAツアーリポート
セントアンドルースの「全英オープン」
石川メジャー最高位27位、優勝は伏兵ウーストハイゼン(南ア)
武藤一彦のUSPGAツアーリポート
トム・ワトソンが去った。石川遼に課題が残った。
そして、北アイルランドのグレアム・マクドエルがメジャー初優勝した。


誰も予想し得なかった番狂わせ
40年ぶりのイギリス勢の優勝となった
「第110回全米オープンゴルフ選手権」はアメリカ西海岸の名門コース、
ペブルビーチ・ゴルフリンクスで6月20日(日本時間の21日)最終日を行い、
欧州ツアーの中心選手、グレアム・マクドエル、30歳が逃げ切った。
イギリス勢の全米オープン優勝は、1970年のトニー・ジャクリン以来
40年ぶり。大方の予想を覆す番狂わせだった。
米西海岸、太平洋に面したペブルビーチGLで開催された5回目の
「全米オープン」は北アイルランドからやってきたマクドエルの一人舞台だった。
最終日の重圧の中で追い上げが期待されたフィル・ミケルソン、タイガー・ウッズ、
そしてアーニー・エルス(南ア)のスコアが伸びず、ただ一人フランスの
グレゴリー・アーブレが追い上げたが、1ストローク届かなかった。


グレアム・マクドエル。30歳。「全英オープン」の舞台となった北アイルランド、
ポートラッシュ生まれ、ポートラッシュ育ち。トップアマから2002年プロ入り、
欧州ツアーで4勝を挙げた。アジアでは、06年のアジア欧州対抗戦
「ザ・ロイヤルトロフィー」でチームを優勝に導く活躍でお馴染みとなった。
風の強いロイヤルポートラッシュ育ち。リンクスの中でもタフさで知られる
「全英オープン」を背景に見るゴルフは誰よりも安定していた。
ドローヒッター。風の下をかいくぐるドライバー、食い込むように硬い
グリーンにバイトするアイアン。アプローチ、パットは、リンクス慣れした
イギリスタイプの安定性を見せた。
世界的には知名度はまだまだだった。今回の大会がリンクスで行われたことが
大きく運命を変えた。コースに誰よりもフィットしたゴルフの勝利だ。
イギリスは大騒ぎだろう。「全米オープン」は1970年(ミネソタ州ヘイゼルタイン)
のジャクリン以来の優勝。イングランド生まれのジャクリンは、後にサー(貴族)
の称号を授与され、国民的ヒーローとなった。
マクドエルの北アイルランドは、歴史や宗教上、多少の軋轢があり、大熱狂という
わけにはいかないだろう。だが、スポーツに国境はない。スポーツ好きのイギリス人
が喜びを爆発させるシーンが目に見えるようだ。
リンクスが浮き彫りにした多くの課題
石川は、タイガーはどう変わるのか?
2位のアーブレは、07年の欧州ツアー「バークレイス・スコティッシュオープン」
でミケルソンをプレーオフで破って優勝した。大物食いへのフランスの期待は
想像に余りあったろう。
ともあれ、欧州ツアーの層の厚さをたっぷりと見せつけられた今大会だった。
石川は最終日80を叩き、33位タイに終わった。
3日目を終わって7位。最終日は、来年の出場権がかかる15位を最低目標。
あわよくば優勝争いもと期待したが、世界はそう甘くなかった。
18歳で初出場、賞金王となった成長率と運に賭け、固唾を呑んで見守ったが、
やはり通じなかった。
ドライバーを飛ばし、ロブショットを磨く"石川流自己開発ゴルフ"は
3日間は通じたと見るべきだろう。あと1日をどうするか。
これから先は長いのか、次に飛躍するのか。

タイガーは4位タイに終わった。
「精神的にショットの度に動揺していては勝負にならない」と、ホールアウト直後の
テレビインタビューで反省していた。
自分にまつわる一連の大事件を起こし自らのペースを失った。精神的な要素が
プレーを大きく左右するゴルフで"メンタル"の立て直しは不可欠だ。
しかし、第3日の18番ホール、右サイドの木の下からスプーンで低い
フェードボールをコントロール、260ヤードを2オンさせたショットには
"スーパータイガー"の復活を強く感じた。

最終日は、セカンドショットのスピンコントロール、深いラフからの
アプローチショット、手先の感覚(タイガーフィーリングと名付けている)に、
タイガーのトーナメントへの意欲を見た。
偶像は落ち、自責の念にさいなまれている。ゴルフが上手くいくはずがない
状況だ。今の姿を見せ続けることで周辺の氷が溶解すれば、心も温まる時が
来るだろう。それから、だ。
60歳の決断...
万感の思いが込み上げた最終ホール
ワトソンが18番で涙した。50センチのパットは、ラインも見えなかったの
だろう。最後は3パットしてボギー。78を叩き、29位タイで終わった。
実は「全米オープン」は、今回を最後に"引退"を決めていたのだった。
1982年、17番ホール、右のラフからサンドウェッジでチップインバーディを
決め、先に上がっていたニクラスを逆転で下した。
「万感の思いが最終ホールで込み上げた」と再び目が潤みかけると、
「まあ、いいじゃないか、それよりあのバンカーショットの話をしようよ」といって、
トムソーヤと呼ばれた親しげな笑顔を最後に見せた。寂しいことだが、最高だった。

昨年の「全英オープン」はプレーオフで敗れたとはいえ、59歳の活躍は
誰の心にも深く思いを残した。
今シーズンのチャンピオンズツアー開幕戦「三菱エレクトリック・チャンピオンシップ」
では60歳で挑み、シニアルーキーのフレッド・カプルスを大激戦の末に打ち破って
優勝したと思ったら、4月の「マスターズ」では18位に食い込んだ。
何かおかしいな? 嫌な予感。やっぱりそうだったのだ。
さようならワトソン。ペブルビーチは誰よりもあなたに似合っていた。
写真は PGA TOUR より
Date:2010.06.23 Category:リポート