ツアーの視点を変えテーマを絞り伝えていく
文:武藤一彦

「セガサミーカップ」の2日目は「31」パット
深刻な決意と新たな挑戦
次なるものを求め、先人が辿った道をゆく
石川が「セガサミーカップ」の第2日からパッティングの握り方を
クロスハンドに変えた。
それまでのノーマルな握り方は、両親指がシャフト上に吸いついたように
重なり、白い爪をキチンと上に向けた美しい形。そこに石川のまじめ、律義さ、
“でなければならない”、“これを貫くのだ”といった姿勢、生き方、追求心が
あり、好感がある。
クロスハンドはある意味、従来の否定である。石川の感覚がなくなっちゃう
のじゃないかと心配したくなるが、これもゴルフだ。
ジュニア中学時代にクロスハンドを使ったことがあったというが、プロと
なってからは初のモデルチェンジ。
15歳の初優勝、賞金王を獲得した昨年(2009年)、そして初のメジャー参戦に
すべて付き合い、今年1ラウンド58の快挙を生んだ、遼の分身ともいえる
パットテクニック。その重要な部分を思い切って変えたのは、何であれ大きな変化。
今後どうなっていくのか、興味深いことと受け取っている。

次なるものを求めた通過点と気分転換。長いツアー転戦からくる閉塞感とその打開。
そして、シーズン半ばに入ってツアープロとしての計算。プロである以上、
新たな取り組みは当然であろう。
ここ数週間の石川はショットがよく、特に全英ではショットの乱れはなく、
その反動のように入らないパットを指摘された。
「今のパットでは世界と戦えない。アプローチも含め、ショートゲームを
磨かなければいけない」と、全英直後に本人が口にした言葉は、深刻な決意と
受け取った。
深刻とはいっても良くある話だ。ショットが良ければパットが悪い。
ピンにひっつく回数が増えれば、惜しいパットが増えるのはゴルフの宿命。
だから、「18歳がやっとゴルフが見えてきた、多くのゴルファーが辿った道を
なぞりはじめ、転換期か」と受け取めてちょうどいいのだ。とはいえ、ツアーに
出ていて成績が上がらないのはおもしろくない。
パットにその問題点をぶつけ、クロスハンドに変えたあたりが気がかりだし、
不安もある。やっぱり放っておけないことで、これからも注意深く見ていこうか。
これもゴルフの一面。
研究課題としてのクロスハンドは
復元、反復、順次性に優れている
石川のクロスハンドについてはこんなエピソードがある。
西谷元司プロ(50)は立命館大学ゴルフ部監督。07年、同大学を日本女子
学生選手権で日本一に導き、今も付属の小学校やジュニアスクールで指導をする。
この西谷さんの研究テーマのひとつが「クロスハンドによるスウィングの
考察と実践」(仮題)である。
すべてを記述できないが、要点を絞るとこういうことだ。「クロスハンドは
左サイドの復元、反復性に優れ、その順次性はひざ、股関節、肩、ひじ、手首
への運動連鎖が行われやすい」というものだ。
お断りしておくがパットの話ではない。西谷さんはクロスハンドをショットに
持ち込んで研究課題としている。ジュニアや大学生を“実験台”に結果を残した、
ある意味“成功者”なのだ。
簡単に言うとクロスハンドでショットすると、左手が下にくるので上げにくいが
元に戻りやすい。復元、反復、順次性がいい、というのはここにある。
築き上げたパットテクニックとの決別は
自分を取り戻すための再発見の旅

さて石川のクロスハンドだが、自身、次のようにいっている。
「カップに直線的に入る。ボールのカップへの入り方がこれまでにないほど
ストレートだ」数ラウンドを試しての実感である。
さらに「したがってこれまで以上にカップにストレートに打っていける。
これまでの感覚と明らかに違う」。
石川はパット。西谷さんはショット。(ショットとパットは違うという意味で)
全く違うものだが、ボールを打つ反復性、フォローを的確にたどる順次性に
優れているのなら、ゴルファーにとってこれ以上望むべきものはないということ
であろう。
実は、西谷さんは石川のスウィングをするためにこの課題を推進する。
子どもや大学生に圧倒的に支持される石川。「遼君みたいに打ちた~い」という
“生徒の要望”がバックにある。
「クロスハンドでフォロー、フィニッシュと振り切ろうとすると左がきつく、
脇が締まってフィニッシュに行かない。それをひざ、股関節、肩、手首で
フィニッシュまで納めるのが石川です」
実は(また思わせぶりな言い方で恐縮)、縁あって手ほどきしてもらったが、
確かにその体感はある。石川がクロスハンドと聞いて、すぐ思い出したのが
今回書いたことである。
石川は石川に戻ったと結論づけようか。
クロスハンドに戻した遼、パットスタイルの変更は、遼が遼を取り戻す
ための再発見の旅ではなかろうか?
写真は GDO より
◇武藤 一彦(むとう かずひこ) ゴルフジャーナリスト 評論家。
報知新聞社運動部、編集委員、専属評論家を経て現職。トーナメントの
テレビ解説、コラムなど幅広く活躍。日本プロゴルフ協会(JPGA)理事、
日本ゴルフトーナメント振興協会メディア委員会委員、世界ゴルフ殿堂
選考委員。1939年11月、東京生まれ
Date:2010.07.31 Category:コラム





