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文:武藤 一彦
写真:ゲーリー小林

LEGEND OF GOLFER   Jack Nicklaus

ジャック・ニクラス、競技生活を目いっぱい戦った真の王者

最年長優勝を飾った1986年のマスターズ。話題になったのは、使用する

「デカパター」だった。その後、全世界でこのタイプが大ブレイクする 

“ゴルフとは競技である”

強い信念と愛が全米を動かした歴史的エピソード

 ゴルファーであるニクラスが主張する1997年の出来事は今でも忘れられない。
 彼の主催する米ツアー、「メモリアルトーナメント」はニクラスが尊敬する
ボビー・ジョーンズにオーバーラップして立ち上げた。グランドスラマーとなって
「自分のコースを持ち、マスターズのような大会を開きたい」という思いは強く、
1974年、全財産をつぎ込み、オハイオ州コロンバスにミュアフィールドビレッジ
GCを作った。このコース名は初の「全英オープン」を制した英国のリンクスコース、
ミュアフィールドに由来する。そして「メモリアルトーナメント」は1976年、
第1回大会を行っている。

ニクラスと言えばマグレガー社製「L字型」の「ジョージ・ロウ」モデルパター。

繊細なタッチが要求されるが、当時は垂涎の的だった。アイアンも

マグレガー社製の「V.I.P」モデル。切れ味抜群のショットを連発する

アマチュア時代のタイガー・ウッズと。

ニクラスはタイガーが最も尊敬する一人だ

 さて97年の大会はタイガーが本格参戦デビュー、その翌々週にはメリーランド州
にあるホワイトハウスなどで知られるベセスダ市郊外のコングレショナルGCで
「全米オープン」も控え、盛り上がっていた。だが、決勝ラウンドに入ると天候が
激変、大会は月曜日にずれ込んでしまった。

 大方のトーナメントは最終日が開催不能、あるいは順延のときのために予備日を
とってある。しかし、その時は「全米オープン」の予選を月曜日に隣接する別のコース
で行うことがすでに決まっていた。「全米オープン」は米国ゴルフ協会(USGA)の
大事なチャンピオンシップ。月曜日に行うその予選会にニクラスとしても試合を
ぶつけることは許されないと思われた。結論を急ぐ。

 しかし、ニクラスは断固、自分の大会を月曜日に開催した。いや開催できたのだ。
では、全米予選はどうなったか。火曜日に開催日を変更したのである。何でもない
ことのようだが、「すごいことをやってのける。さすがだ」と唸った。
 忘れられない歴史である。

  ニクラス最愛のバーバラ夫人との    ツーショット

   ニクラスは全米ゴルフ協会に事情を説明し、説得し了解を
  得た。それだけニクラスは影響力があり、トーナメントに
  こだわり、人脈があり、アメリカ中から大事にされていたと
  いうことだ。
  「メモリアル」はニクラス一個人の大会、一方、全米ゴルフ
  協会は全米を統括する国民的大会の統括団体だ。予選だから
  仕方ない、ということではない。150人ものプレーヤーが
  全米中から集まってくる予選会、その予選会にはさらに2次、
  1次と2万人が参加するトーナメント方式での争いがある。
  ある意味、日本の国体競技のような性質のものである。
   ニクラスはそれを動かした。スーパースターのゴリ押しなどと
  言ってはならない。
   ニクラスのパワー、人徳、キャリア、いま不可欠なことを
  不可欠と言い切る自信、何より自らのトーナメントへの気持ちの
強さ、そして“ゴルフへの愛”。そして、そうしたすべてをアメリカ中が敬意と愛をもって受け止め推進した。
本当のゴルファーはモロモロをあっさりと解決する。この時、本当の強さをもっていると思ったものだ。

「全米オープン」で一緒のパーティとなった新旧帝王。

新帝王ワトソンにとってのニクラスは最大の目標だった

 PGAツアー73勝、チャンピオンズツアー11勝、世界各国で22勝の他、
アマでは全米アマ2勝。ジュニア、学生などのタイトルは“数限りない数”だ。
アマの記録を調べると、確かにオハイオ州アマ6連勝などすごいキャリアがびっしり。
だから合間に見える、9歳から始めたゴルフのスコアは51だったとか、15歳の
部で初めて失格というのが書いてあったりするのがおかしい。勝利が当たり前の
キャリアは当たり前すぎて触れないという面白さか。

現在のマスターズ名誉スターターの3人。ゲーリー・プレイヤーの

ショットを見守るアーノルド・パーマーとニクラス

 いずれにせよ、そこにはゴルフとは競技であるとするニクラスの断固とした姿勢が
見える。少年時代からプロ、シニアを通じて競技に勝つこと、そのための生活しか
やっていなかった競技者の真の姿がある。
 競技ゴルフを全うし、ニクラスは言っている。
「2005年に引退したあと、約9ヶ月、一切スコアを付けてラウンドしたことがない」
 ゴルフイコール競技、それがニクラスの生活。ほっと胸をなで下ろす安堵感がある。
ゴルフを本当に好きで愛していたのだ。力いっぱいやっていたのだ。     (End)

◇武藤 一彦(むとう かずひこ) ゴルフジャーナリスト 評論家。
報知新聞社運動部、編集委員、専属評論家を経て現職。トーナメントの
テレビ解説、コラムなど幅広く活躍。日本プロゴルフ協会(JPGA)理事、
日本ゴルフトーナメント振興協会メディア委員会委員、世界ゴルフ殿堂
選考委員。1939年11月、東京生まれ。

◇小林 滋(こばやし しげる) ゲーリー小林の名で知られる日本を
代表するプロゴルフトーナメントカメラマン。日本国内はもとより世界4大
メジャーなど数多くのプロゴルフトーナメントを取材。国内外のトッププロ
とも親交が厚く、中でもタイガー・ウッズに最も信頼されているカメラマン。
これまでの収録枚数は20万枚以上。

Date:2011.03.17 Category:コラム, ゴルファー